香りを使ったマーケティングを実践している企業として一番に頭に浮かんだのは、若い女性から絶大な人気を誇る「AZUL」である。人気ブランドの「moussy」の姉妹ブランドで、黒を基調にした店舗とシンプルで洗練されたファッションが若い女性に人気のブランドだ。
店内に入ると高級ブランドショップや高級ホテルのような上品な雰囲気がある。
特に派手な装飾はないものの、黒を基調にした店内とインテリアにあしらわれたゴールド、そしてこの香りが大いに影響しているだろう。ちょっと贅沢な雰囲気すら味わえてしまうのだから不思議である。
ブランドのターゲット層にあった香りAZULはショッピングモールなどに出店していることが多いが、その店の前を通ると爽やかな香りが漂ってくる。
マリン系のような爽やかさとフローラル系の華やかさ。男性にも女性にも好まれる香りだ。調べてみるとやはり同じようにこの香りが気に入って買いたいという人は多いようで、問い合わせが殺到していたようだ。
香りの正体はAZUL独自の香水の香りではなく、エアーフレグランス社のフレッシュクリーンというディフューザーを使用しているとのこと。
「シトラスとフローラルを加えた、新鮮な空気の香り」という説明がある。
男性も女性も若年層はシトラスやフローラルなど爽やかな香りを好む傾向があるが、いろんな年齢層がいるショッピングモールで若者をターゲットにしているという点でこの選択は納得である。
「香りは見えない広告」
最初は香水をつけた人の残り香かと思ったのだが、どこのショッピングモールに行ってもAZULの前では同じ香りがしたので、それぞれの店舗で同じ香りを仕掛けていることがわかった。
個人的にはファッションブランドに関してはあまり詳しくないが、「この香りがする→AZULが近くにある」と認識できるため、全く自分の好みのファッションジャンルでなくてもAZULの存在を瞬時に確認するのである。
興味がなければ素通りしてしまうのに、嗅覚から脳が反応してしまうのである。これがこの香りマーケティングの効果なのだと思う。
通り過ぎる人のショップバッグを見て「あ、あのお店近くにあるんだ」と思うのと同じで、この香りがすると「あ、AZULが近くにあるんだ」と思う。
香りだけでこれだけ店舗を印象付けられるのだから非常に有効な戦略である。
「香りマーケティングから人気商品が誕生」
AZULの利用者にはこの香りのファンが多く、香水を出して欲しいという要望が数多く寄せられたそうだ。そこで、有名ブランドの香水をプロデュースした調香師がこの店内に広がる香りを香水で再現し商品化したところ、即完売するという人気ぶり。
さらにハンドクリームやヘアシャンプー、ボディクリームなども販売し、ライン使いで香りを楽しめるように商品化を進めていったようだ。
AZULにとって香りを取り入れた理由がブランド力の向上のためだったとすれば、この利用者からの反応は嬉しい誤算だったかもしれないが、アパレルに限らず若い女性が関心の高い美容系の商品にまで領域を広げられたのはかなり大きなメリットであったと思う。
アパレルの売り上げに依存せずリスクを分散できるという点でも、とても効果的だ。
特に香りに敏感な若年層の好みに合う香りをきちんと選択できたことが勝機だった。
香りとイメージの結びつきは強く、一度認識するとそう簡単に消えるものではない。
今でこそ香りマーケティングは知名度も上がり、取り入れている企業が増えてきているが、個人的にはやるなら早くすべきだと思う。こうしている間にも消費者は香りと商品やイメージを結びつけている。いかに早く「この香りってあのお店だよね」と認識できるかどうかが鍵なのだ。
広告媒体で宣伝をするよりも比較的安価かつ効果的に店舗を印象付けることができる香りマーケティングはこれからますます採用する企業が増えていくだろう。