香りを表現する難しさ
香りを何かしらの言葉で表現しようとした時、その難しさに驚いたことはないでしょうか。
香りは目に見えないので鼻からでしか味わえないものです。
実際香りを経験した人が、その香りがどうだったか説明することは難しいのです。
香りを相手に嗅いでもらう以外に伝える方法は無いのですが、香りが手元にない場合、相手が離れている場合などにはなにかしらの言葉で伝えなくてはいけません。
ですが、一言で説明ができないのが香りです。
何故なら味覚のように嗅覚も人によって違うので、「良い香り」や「悪い香り」等の漠然とした言葉では伝わらないからです。
ですので言葉での表現が非常に難しく、伝わりにくい物なのです。
一般的に広く知られている香りなら、なんとなくの文章で伝わることもあるでしょう。
しかし、「あまり知られていない香りを文章や言葉で明確にあらわしたい」というのなら非常に難しいことです。
全く知らない香りをどうやって相手に伝えれば良いのでしょうか。
「カレーに近い」「ラベンダーのような」「甘くて少しスパイシーな」という言葉だけで本当に伝わるのでしょうか。
○○のような、という言葉は非常にあいまいです。
それは人の記憶に頼る物なので、全く違う香りが伝わっている可能性があるからです。
目に見えない物を伝えるという事は本当に難しいのです。
では、香りはどのように表現されているのでしょうか。
色も形もなく、実際に目の前に無くてはわからないものを表現するにはたくさんの言葉や経験が必要となります。
自分が今まで聞いた言葉、知った言葉、見た物、それら全てを総動員してようやく伝えられるのが香りなのです。
それでも本当に同じ香りが伝わっているのかも定かではないのですが、香りを表現するということはその場の空気や気持ちを表現したいというようなもどかしい行為でもあるのです。
香りを表現するにはどれだけ言葉があっても語りつくせないものなのです。
香りを伝えたい理由
そもそも何故香りを誰かに伝えたいのでしょうか。
日常生活で香りを相手に伝えるということはほぼありません。
香りを表現で伝えようとしているのは主に雑誌や小説、映画です。
雑誌には特に広告や宣伝で香りに関する表現を目にします。
雑誌でよく見るのが香水やボディソープ、入浴剤の特集です。
それぞれ異性に好かれやすい、気分が上がる、癒される等、様々な言葉を並べて香りが表現されています。
この表現でも何となく伝わるのですが、どんな香りなのかは具体的にはわかりませんよね。
また、この表現は女性向けの雑誌に多く、対して男性用の雑誌では「匂いを抑える」というネガティブな表現が多いです。
香りという言葉はポジティブですが、匂いという言葉にはネガティブなイメージがあります。
男性には体臭があるので匂いと表現されがちですが、男性にもおすすめの良い香りとして香水がありますね。
香りというポジティブな表現がもっと広がると良いですね。
また、香りを伝えたい理由としては雑誌を読んでいる人に購買欲を持ってもらうことを目的としていることが多いです。
香りそのものの説明をしている場合もありますが、その香りで空間がどう変化するかという説明の方が多いです。
相手にどう思ってもらいたいか、自分はどうなりたいかという点を雑誌では書かれている場合は多いです。
ですのでこの香りを身にまとうと何が変わるか、ということに重点が置かれています。
香りはその人の気分を左右するものなので、どんな変化が起きるかを知ることが大切です。
読者に興味を持たれる表現で購買欲を刺激するのが雑誌には多いです。
雑誌は宣伝の力が強いので、独自の表現で読者に伝えなくてはいけないようですね。
また、新しく出る商品の香りを表現する時には特に言葉を選びます。
今までに無い香りという事をアピールしながら親近感もあり使いやすく、生活の一部になるという事を読者に明確に伝えなくてはいけません。
目に見えない香りに興味を持ってもらうのはなかなか困難なのです。
読者に香りを想像してもらうのも面白いと思うのですが、商品価値がどこまで上がるかは香りの表現によるのです。
小説の場合
小説には絵や写真は無いので、活字だけで香りを表現しなくてはいけません。
小説の中では香りは様々な働きをしています。
エレベーターの中での残り香、玄関に入った時の香り、クリーニングから返ってきたワイシャツの香り、硝煙の香りなど、日常的な物からそうでない物まで幅広いです。
読むだけで活字から香りがわきたつような表現が必要です。
何故なら香りは生活の中で欠かせないものですから、日常を書く小説にも欠かせないのです。
登場人物たちがどうやって生活しているのか、どこに住んでいるのか、どんな食べ物が好きなのか、小説の中では香りと共に表現されます。
さらに小説の中では香りは小道具やなにかしらのヒントを秘めています。
ですので香りをどのように表現するかで小説の完成度も変わってきます。
それぞれの小説家がどのように香りを表現するかを楽しむのもおすすめです。
例えば同じ夏のヒマワリ畑の香りでも、人によっては憂うつな香り、人によっては楽しい香りになります。
「息が詰まるような」という表現をする作家も要れば「初夏を感じさせるような」という表現をする作家も居ます。
同じ香りを表現するのに作家は様々な言葉を持ちよります。
香りがどんな表現をされているかを楽しむのも小説の醍醐味なのです。
香りは小説の中で感情、空間、結果など、様々な物を表現してくれる物なので小説には欠かせないのです。
映像の中で香りを表現
映画の中で香りを表現することは最も難しいです。
登場人物に「良い香り」と台詞で表現させることは簡単ですが、「匂いたつような香り」などとわざとらしい台詞を言わせることは難しいです。
ですが映画の中でも香りは必要不可欠な存在です。
そのため香りに煙や色がついていたり、出演者の表情で表現されたりします。
映画の中の香りの役割は清々しさや官能感、空腹感など様々な物を引き出します。
映画の中の香りは雰囲気を作るのに大切です。
見ているこちらが清々しくなり、官能的になり、空腹を覚える、そういった共感を引き出すのが映画の中の香りです。
それぞれ趣向を凝らして観ているこちらに伝えてくるのが映画の中の香りの表現なのです。
香りを表現するには
香りを表現するのにもっとも簡単なのが「色」ではないでしょうか。
色は甘さや活動的などのイメージを表現するのによく使われますが、香りを表現するのにもぴったりです。
シャンプーや香水のパッケージを見ると、同じ種類でも香りによって色分けがされていますよね。
私たちはその色でなんとなくどんな香りがイメージすることができます。
何故なら香りは色のイメージと深く結びついているからです。
そもそもの色への固定観念を利用して香りを表現すると簡単です。
まず「甘い香り」ですが、これは色で表現すると「ピンク」を思い浮かべる方が多いでしょう。
ピンクには女性らしく甘いイメージがありますね。
甘い香りの香水はボトルもピンクの物が多いです。
ピンクの商品に甘い香りの物が多いから、ピンク=甘い香りという図式ができているのではないでしょうか。
女性らしく可愛いピンクは甘くて良い香りのイメージですね。
次に「爽やかな香り」ですが、こちらは色でいえばブルーでしょうか。
ブルーは夏のイメージが強いので、爽やかといえばブルーに結びつきやすいです。
アイスクリームでも爽やかな味の物はブルーのパッケージを使っている物が多いですし、海やプールも青ですね。
若々しくて爽やかな青は見ているだけで夏をイメージできます。
次に「フレッシュな香り」ですが、こちらは色でいえばオレンジではないでしょうか。
レモンやパイナップル、グレープフルーツやオレンジなどの柑橘系のみずみずしい感じはすぐにフレッシュさに結びつきます。
柑橘系のはじけるような果肉が元気なイメージですね。
新鮮なフルーツのイメージはフレッシュさを思い出します。
また、オレンジの色は見ていて元気になるので良いですね。
フレッシュな香りは元気を与えてくれるので、疲れている時にはぴったりですね。
次に「清々しい香り」ですが、こちらはグリーンがぴったりです。
疲れている時に森林浴をすると清々しい気持ちになりますよね。
グリーンは落ち着いて清々しい気持ちにしてくれます。
人は疲れている時には自然を求めるので、すぐに森林浴などに行けない場合には清々しい香りを取り入れましょう。
人によって色から感じる香りのイメージは少し異なると思いますが、香りと色は表現するうえで切り離せない存在なのです。
香りを言葉にして伝えるには
香りを言葉にして伝えるときに一番使われやすいのが「○○のような香り」という言葉です。
ですが、この○○を知らない人にはどう伝えれば良いのでしょうか。
○○を知っているという前提で話をすすめる事もありますが、まずは誰にでも伝わる言葉で表現してみましょう。
「明るい」「暗い」「苦い」「甘い」等という一般的な言葉でも香りのイメージはできますね。
さらに「硬い」「柔らかい」「穏やかな」「女性的な」という言葉でも表現できます。
硬い香りや柔らかい香りとは具体的にどんな物か言葉にはし辛いですが、確かに硬い香りや柔らかい香りという言葉がぴったりな物もあります。
目に見えない香りを物理的や感情的に説明すると伝わることもありますね。
他には「持続性の高い」「特徴的な」「不快な」「調和の取れた」など、想像力を必要とするものもあります。
この場合は小さな子供には伝わりにくいですが、日常的に様々な香りを知っている大人にこそ伝わる表現ですね。
相手の年齢に合わせて表現を変えるとより伝わりやすいです。
香りを表現する言葉ははるか昔からありますが、「香り」という言葉もそもそもいくつかの言葉に分けることができます。
例えば最も良く聞くのが「芳醇」です。
こちらは香りが高くて味にもコクがあるという意味なのですが、ビールやチョコレート等のCMで良く聞きますね。
香りの濃度だけでなく、味まで一言で説明できるのが芳醇という言葉です。
このようにたった数文字で香りだけでなく周りの状態を説明できる言葉はまだまだあります。
例えば「移り香」という言葉です。
移り香とは服や物に香りが移った状態を指すのですが、少し風流な気がしますね。
服にどんな香りが移っているのか、またいつ移ったのか想像力が膨らみます。
亡くなった人の香りかもしれないし、花屋の香りや防虫剤の香りかもしれません。
また、知らないうちに誰かの香りが移っているのは親密なイメージも持たせるので小説でも使われやすいです。
移り香という言葉で色々な情景が浮かんできますね。
「香煙」は、お香に火をつけて出た煙を指します。
煙の香りではなく、お香から出た香りの事を言います。
少し香りのある煙はお香ならではですね。
こちらも季節を感じることのできる言葉です。
「芳香」は、かぐわしくて良い香りを指します。
花に良く使われますが、この言葉が出ると脳内に良い香りが広がりますね。
香りを言葉で現すと様々な表現に分かれますが、どれも普段から身近にある言葉ばかりです。
香りに関する表現には多様性があってこだわりがあります。
それほど香りは私たちの生活になくてはならないものなのです。
思い出や記憶、味覚や色など、香りの中には様々な情報が入っています。
私たちの生活には香りは言葉となって散りばめられているんですね。